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10話-3 生家へ。

last update Huling Na-update: 2025-04-16 20:00:00

すると煌びやかな広間のソファーに華やかな女性が座っていた。

その女性はエルバートの母から以前見せてもらった新聞のご令嬢に似ており、フェリシアは息を呑む。

「アマリリス嬢、なぜここに?」

エルバートがそう問いかけ、

もしかして、と心の中で一瞬思い浮かべたアマリリスの名が確信へと変わり、

本物のアマリリス嬢なのだと理解した。

「テオお父様に呼ばれましたの」

アマリリス嬢が答えると、エルバートの母の執事が口を開く。

「旦那様、エルバート様がご帰省なされました」

広間は静寂に包まれ、コツ、コツ、と重い足音が響き渡る。

マントを靡かせ、貴族服を着た凛々しき男性、

エルバートの父であるテオ・ブランが中に入って来た。

髪は長くないものの、エルバートと同じく、美しい銀色の髪をし、顔もエルバートによく似ている。

「エルバート、やっと帰省したか」

「父上、これは一体どういうことだ?」

「私を騙したのか」

エルバートは冷ややかな強い気を放つ。

しかし、エルバートの父は動じない。

「こうでもしないと、お前、帰省しないだろう?」

「同じ伯爵の身分だった時はここで共に暮らしていたが、戦闘での活躍が認められ、公爵の位をもらい、家を出て屋敷を構えたきり一度も帰省しなかったお前が悪いのだ、反省しろ」

「ご主人さま」

フェリシアが声をかけると、エルバートは冷静になる。

そして何食わぬ顔をして中に入って来たエルバートの母を一瞬、睨む。

「虚言だと分かった以上、すぐにでもこの場を離れたいところだが」

「ここまでして私を帰省させた誠の目的はフェリシアだったのだな」

(え、わたし……?)

「エルバート、さすがは察しが良いな」

「フェリシアさんに一度会いたく、お前に連れてこさせたのもあるが、1番はお前の花嫁候補を、この家の当主である、テオ・ブランが正式に決める為だ」

エルバートの父の目的を知ったフェリシアは驚き、固まる。

「母上の時も思ってはいたが、仮にも、私の婚約者をさん呼ばわりとは、何ごとか! フェリシア嬢と呼べ」

「立場をわきまえよ」

「しかし、まあ、良い。正式に花嫁候補となったらフェリシア嬢と呼ぼう」

「それからこれだけは言わせて頂く」

「側近に見張らせていたが、ここ2週間、アマリリス嬢に宮殿まで足を運ばせ、花畑等色々なところに行かせ、夕食も共に取らせたにも関わらず、アマリリス嬢になびかず態度を変えなかったお前を見かねて今回呼んだのだ。感謝せよ」

フェリシアはエルバートをちらりと見る。

(ご主人さま、アマリリス嬢とお会いしていたの…………?)

「よって、これよりフェリシアさんにはアマリリス嬢とダンス、食事マナー、料理作りの3点をして頂き」

「より優れた方を正式なエルバートの花嫁候補とする」

――ああ、エルバートの父に従う以外の道はないのだ。

「……フェリシア、アマリリス嬢とのことを父上の側近の管理下の元とはいえ、お前に気を遣わせたくなくてこれまで黙っていた。すまなかった」

「……そして、今も巻き込んですまない」

エルバートは周りに聞こえないよう、小声で謝る。

エルバートは自分の知らないところでずっと抗っていた。

そして、自分も実は腰が完治したここ2週間、エルバートの母にマナーのことを言われ、

クォーツにダンスの特訓、ラズールに食事マナー、リリーシャに料理作りを教わっていた。

けれど、幼い頃から教育を受けてきたアマリリス嬢に敵うとはとても思えない。それでも。

「……いえ、大丈夫です」

フェリシアも小声で返し、見えないようにエルバートの袖をぎゅっと掴む。

「……ご主人さま、わたしは決して、貴方の傍らにいることを諦めません」

そう宣言し、

エルバートの花嫁候補選びが幕を開けた。

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  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   11話-1 初めての感情。

    ――そして、まずはエルバートとアマリリス嬢が踊ることとなり、不安げなフェリシアの袖を掴む手に触れ、見えないように優しく下ろすと、エルバートはアマリリス嬢の元に向かう。すると、エルバートの父が広間に軍楽隊を呼び、その弦楽器の美しく優雅な演奏と共にふたりは踊り始める。エルバートの踊る姿を初めて見たけれど、惚けてしまうくらい美しく、かっこいい。それにアマリリス嬢も引けを取らず、エルバートと息がぴったりと合っている。(雲の上のようなおふたり。ほんとうに絵になるわ…………)やがて、アマリリス嬢とエルバートが踊り終え、フェリシアはエルバートの元まで歩いていき、向き合った状態で足を止める。けれど、緊張で足がすくんでしまう。(せっかくクォーツさんにダンスの特訓をしてもらったのに。こんな足でちゃんと踊れるかしら…………)そう、足に目線を向けながら不安に陥った時だった。「……フェリシア、こちらを見ろ」エルバートに小声で話しかけられ、顔を見る。それだけで不安が一瞬にして消えた。「……私がリードする。だから安心して身を任せろ」「……はい」同じように小声で返すと、エルバートが手を差し出す。フェリシアはその手に自分の手を添えた。それを合図にアマリリス嬢の時と同じ軍楽隊による弦楽器の優雅な演奏が始まり、共に踊り始める。そうして少し慣れた頃、エルバートの手が腰に触れ、顔がぐっと近づく。お互いに見つめ合うと、離れ、踊り続ける。ほんの一瞬顔が近づいただけなのに、顔が熱い。(リードするってご主人さまおっしゃっていたけれど、こんなの身が持ちません)そう思いながらも、不思議と嬉しさの方が勝る。

    Huling Na-update : 2025-04-16
  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   11話-2 初めての感情。

    フェリシアは左側から席に着き、ナプキンは2つに折り、輪を手前にして膝にかけて待つ。するとやがてエルバートの母の執事による豪華な肉料理のフルコースが始まり、白ワイン入りグラスは親指から中指の3本で持ち、薬指で固定して飲み、バラの花びらのような生ハムトマトの前菜はナイフとフォークを外側から使い、美しさを楽しむよう、いっぺんに崩さないように左側から少しずつ食べ、クリームスープはスプーンを手前から奥へ動かしてすくい、パンは手で一口大にちぎり、そのパンに少しずつバターをのせて食べ、肉料理である牛フィレのパイ包み焼きは左側の端から食べやすい大きさに切りながら頂き、デザートの華やかなケーキは固かった為、ナイフで切り、食事が終わると、ナイフとフォークを揃え、皿の右下へ置き、ナプキンはテーブルの右側へ無造作に置いて、左側から退席した。こうして、食事マナーも無事に終え、最後の料理作りとなり、フェリシアはアマリリス嬢と共に広間から台所へとエルバートの母の執事に案内され、それぞれビーフシチューを作り始める。ブラン伯爵邸の台所もまた厨房のように広かった。食事マナーを終えた時、エルバートとディアムは見守ってくれていたけれど、エルバートの両親、アマリリス嬢はまたどこか驚いた様子だった。きっと上手く出来ておらず、呆れていたのだろう。そして最後の料理作りは毒や不正が働くのを考慮し、先にディアムとエルバートの父の側近、続いてエルバートとエルバートの母が順に食べ、最後にエルバートの父が食べることになった。だから、(料理を教えてくれたリリーシャさん、そして何よりこのビーフシチューの料理を認めてくれたご主人さまに決して恥をかかせる訳にはいかないわ)そう思っていると、アマリリス嬢が話しかけてきた。「フェリシア様はやはりお料理手慣れていらっしゃるわね」「え?」話しかけられると思っていなかった為、フェリシアは驚く。

    Huling Na-update : 2025-04-17
  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   12話-1 正式な花嫁候補とご命令。

    フェリシアはアマリリスを見つめる。「はい、わたしもエルバート様が好きです」そう、告白すると、アマリリスは優しく微笑む。「ならば、お互い負けられませんわね」「フェリシア様、お料理にそれぞれ全力を尽くしましょう」「はい」その後、しばらくして、フェリシアとアマリリスのビーフシチューが出来上がると、皿にそれぞれ少し盛り、お互いにスプーンで味見をし、台所まで来たディアムとエルバートの父の側近にはきちんと盛り付けをして、フェリシア達のビーフシチューをスプーンで食べて完食してもらい、エルバート達が食べる6皿の毒味もしてもらう。すると全皿問題ないと判断され、広間までディアムがフェリシアのビーフシチュー、エルバートの父の側近がアマリリスのビーフシチューを責任を持ってお盆で運び、エルバート、エルバートの母、エルバートの父のテーブル席にエルバートの父の側近がアマリリスのビーフシチューを一皿ずつお出ししていき、その後に続いてディアムがフェリシアのビーフシチューを同じようにお出しして、エルバート達のテーブルにそれぞれ2皿ずつ並ぶ形となった。「では私から」エルバートはそう言い、スプーンを持つ。そんなエルバートの姿を心臓をドキドキさせながら、アマリリスと一緒に見守る。エルバートはアマリリスのビーフシチューからスプーンで食べ、完食するとスプーンを自身に対し平行にして置き、普段と変わらない冷酷な表情で頷いた。隣のアマリリスをふと見ると、両目に涙を薄らと浮かべている。エルバートに初めて自分の料理を食べて貰え、更に完食して貰えたことが余程嬉しかったのだろう。アマリリスのビーフシューを先程味見したけれど、とても高貴な味で美味しかった。だからエルバートも頷くくらい美味しかったに違いない。そう思っていると、エルバートと一瞬目が合った。それを合図にエルバートはフェリシアのビーフシチューを新たなスプ

    Huling Na-update : 2025-04-18
  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   12話-2 正式な花嫁候補とご命令。

    「正式な エルバートの 花嫁候補は、アマリリス嬢とする」エルバートの 父のその言葉を聞き、頭が真っ白になった。エルバートは冷酷な表情のまま黙ってエルバートの父をただ見つめる。「フェリシアさん、貴女には最初から最後まで驚かされた」「特に料理のビーフシチューは素晴らしかった」「だが、アマリリス嬢のビーフシチューの方が優れていると判断した」「しかしながら、努力を配慮し」「フェリシアさんには一ヶ月間、ブラン公爵邸にいる事を許す。だが、その後、ブラン公爵邸から出て行って頂くこととする」一ヶ月後は晩夏。つまり一番暑い時期に出て行けと言う。死んでもかまわないといわれたようなもの。エルバートと一ヵ月間一緒にいられるのは嬉しいけれど、(これでは すぐに出て行けと命じられた方が余程マシだわ)「父上! これはやはりフェリシアを追い出す為の口実を作る茶番であったか!」エルバートは叫び、冷ややかな物凄く強い気を放つ。しかし、エルバートの父はその気を無視して話を続ける。「異論は一切認めん」「一ヵ月後にブラン公爵邸にはアマリリス嬢に住んで頂く」その言葉を聞いたエルバートは剣に手を掛ける。いけない。魔もいないこのような場で剣を抜かせてはだめ!「分かりました」「一ヶ月後、ブラン公爵邸から出て行きます」エルバートは驚いて剣から手を放す。「フェリシア、何を」エルバートと初めて出会った日、尽くそうと、勤めを全うするしかない、どんなに嫌な顔をされようともと心を決めていたのに。「ご主人さま、力及ばず、申し訳ありません」フェリシアはそう言って頭を深く下げる。すると近くの教会の鐘の音が聞こえた。フェリシアは頭を上げ、一人、広間から駆け出て行く。悲しいはずなのに涙も出ず、心の痛みも感じない。自分

    Huling Na-update : 2025-04-19
  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   12話-3 正式な花嫁候補とご命令。

    すると魔は破壊され、光と共に浄化されると同時に 門の一部が崩れ落ちた。「……ブラン伯爵邸まで届けば良かったものを」「……しかし門はディアムが開け、きっちりと締めたはずなんだが、人一人分開いてるということは魔の仕業か? それともここの者の仕業か?」「……いずれにしてもおかしいことに気付けなかった。それにフェリシアの魔除けは万全だった。にも関わらず何故フェリシアばかり狙われる? やはり秘められた力が関係しているのか?」エルバートが小声で何やら呟くも聞こえなかった。エルバートが追いかけて来なかったら、間違いなく、自分は自分でなくなっていたし、死んでいただろう。「追い付けて良かった。フェリシア、大丈夫か?」エルバートに心配され、フェリシアの両目から大粒の涙が零れ落ちる。どうしてここで涙が出るの?心の痛みも感じるの?魔に襲われそうになり、怖かったのか、正式な花嫁候補に選ばれず、物凄く落胆して傷付いたせいなのか、緊張が切れたせいなのか、ここ2週間、寝不足だからなのか、もうよく分からないけれど、涙が溢れて止まらない。一ヵ月後、出て行く身なのに、こんなの困らせるだけなのに。エルバートは切なげな顔をし、何も言わずにフェリシアをただ抱き締めた。その後、ディアムとエルバートの母の執事も駆け付け、ディアムに心配されると、現れた魔を浄化した際に門の一部が崩れ落ちたことをエルバートが伝え、エルバートの母の執事は自身が修復すると笑顔で言いつつも目が笑っていなかった。そして早く帰った方が良いと、ディアムに馬車に乗せられたのは良いものの、フェリシアはエルバートに命じられ、隣に座らされた。エルバートは肩をそっと抱き寄せる。「あ、あの!?」「また魔に襲われるかもしれないからな

    Huling Na-update : 2025-04-20
  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   13話-1 ご主人さまと初めての宮殿。

    * * *――夜。フェリシアは書斎にいた。寝る前に大事な話があるとエルバートに言われ、ここまで一緒に来たけれど、(明日のお勤めのことかしら…………)「このソファーに座れ」「は、はい」フェリシアは命じられた通り、2人掛けのソファーの奥に座る。するとエルバートは目の前に置かれたひとり掛けのオシャレなソファーではなく、なぜか自分の隣に座った。「あ、あの、ご主人さま!?」「隣で話す方が話しやすいからな」(ご主人さまはそうかもしれないけれど…………)動くと手が触れてしまう、そんな距離間に、胸がドキドキしない訳もなく、直視出来ない。「それで今から大事な話をするが」「今朝、ルークス皇帝に呼び出された際、お前に一度会いたいとのことで、晩夏の2日前にお前を宮殿の皇帝の間まで連れてくるようにとルークス皇帝より直々に仰せつかった」それを聞いた瞬間、フェリシアは変な声を出す。「えぇ!?」「えぇって……お前、そんなにルークス皇帝とお会いするのが嫌か?」アルカディア皇国とは無縁だった自分が、まさか、ルークス皇帝とお会いすることになるだなんて。しかも、ブラン公爵邸を出ていくことになっている2日前に。「い、いえ、そうではなく……とても驚いたのと、その、大変おこがましいと言いますか……」「ルークス皇帝には皇帝に即位される前から長年仕えているが」「優しく穏やかな雰囲気で、仲間や民を誰よりも大切に思うお人柄なゆえ、そんなに恐縮せずとも大丈夫だ」(ご主人さまの大丈夫はほんとうに心強い)「わ、分かりました」「では、晩夏の2日前までに支度を整える」* * *フェリシアはルークス皇帝にお会いしても恥ずかしくないよう、日々、立ち振る舞いや身だしなみ等に気を付け、当日の早朝。フェリシアはベットの上で固まっていた。どうしよう

    Huling Na-update : 2025-04-21
  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   13話-2 ご主人さまと初めての宮殿。

    「いや、笑うつもりはなかったのだが、お前を見ていたらつい、和んでしまった」「こうやって朝ご飯を共にするのも悪くないな」そう言われ、フェリシアもまた、心が和んだ。このような感じでやがて朝ご飯を終えると、部屋でリリーシャにお化粧、そして髪を整えてもらい、そのままリリーシャと共に大広間へと移り、エルバートが美しい容姿の仕立て屋に頼み、新たに仕立ててもらった高貴なドレスに着替えさせてもらい、更に準備してくれていた耳飾りに花とショートベールが付いた帽子も被せられ、薄らとしか周りが見えなくなった。「フェリシア様、ルークス皇帝の執事のお迎えが参りました」「お開けしても宜しいでしょうか?」ラズールの声が廊下から聞こえ、はい、と許可を出すと、大広間の扉が開き、ラズールに手を添える形で玄関まで行く。すると髪を麻紐で一つにくくり、勲章がたくさん付いた高貴な軍服姿のエルバートが待っていた。この姿はもう何度も目にしているのに、今日のエルバートは帽子のショートベール越しに、これまでで一番美しく、凛々しいように見えた。エルバートはフェリシアに気づき、その姿を見て一瞬驚き、いつもの冷酷な顔にすぐさま戻す。「馬車まで付き添う」「あ、はい、ありがとうございます」お礼を言った後、今度はエルバートに手を添える形でルークス皇帝の執事の馬車まで歩いて行く。すると手が離れ、心細い気持ちになった。けれど、エルバートはそれを察したのか、頭を撫でるように帽子のショートベールの部分に優しくぽんと触れ、瞬く間にフェリシアの心が温かくなった。フェリシアはルークス皇帝の執事により馬車に乗せられ、エルバートはその間にディアムとそれぞれ自分の高貴な馬に乗り、ラズール、リリーシャ、クォーツが集まり、頭を下げた形で見送られ、エルバートとディアムに守られながら、フェリシアを乗せた馬車が御者を務めるルークス皇帝の執事の手に

    Huling Na-update : 2025-04-22
  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   14話-1 皇帝とご対面。

    宮殿内は豪華絢爛で、もっと圧倒され、すぐさま使用人達の注目の的となった。「あの方がエルバート様の胃袋をお掴みになられたフェリシア様?」「これからエルバート様と共にルークス皇帝とお会いなされるそうよ」「すごいわ。けれど、フェリシア様は今後エルバート様にご婚約を破棄され、エルバート様は正式にアマリリス嬢をお選びなられるとの噂よ」「そうなの? もし噂がほんとうならお気の毒ね」そんなコソコソ話を聞いても、圧倒されているせいか、さほど気にならず、やがて、執務室の前でルークス皇帝の側近が足を止め、フェリシア達も立ち止まった。「こちらが控え室となります」「控え室が執務室だと? 貴賓室の間違えではないか?」エルバートがルークス皇帝の側近に問いかける。「いつもおられる場所が落ち着くと思い、執務室と致しました。ルークス皇帝のご準備が整うまでこちらでしばらくお待ち下さい」ルークス皇帝の側近が執務室の扉を開け、ディアムは廊下で見張る為、フェリシアとエルバートのみ中に入る。するとメイドがワゴンで紅茶とお菓子を持って来て、テーブルに置き、出て行くと扉が閉まった。(ここがいつもご主人さまが執務をなされているお部屋……。書斎よりも広いわ)そう感激していると、エルバートがソファーに座る。「フェリシア、隣に座れ」フェリシアは声をかけられ、ハッとした。(つい、嬉しくて、ご主人さまを置き去りにしてしまっていたわ)「は、はい」フェリシアはエルバートの隣に座る。そして、エルバートと共に紅茶を一口飲む。(あ、美味しい……)少し気持ちが落ち着くと、廊下でディアムが誰かと話している声が聞こえ、扉が開く。優しそうな青年、明るく元気な青年、顔が整った青年が続けて入って来た。するとエルバートは嫌な顔をする。「ディアム、なぜ私に一言もなく開けた?」

    Huling Na-update : 2025-04-23

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  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   18話-1 想いを月にのせて。

    * * *――――ご主人さま、行ってらっしゃいませ。――――あぁ、行ってくる。(初冬の日、ご主人さまは出立なされました)その日の夜のこと。フェリシアは廊下で、ご主人、と言いかけ、口ごもる。いけない。(ご主人様がいないのに、寝る前にこの場所でよく話していたせいで、呼びそうになってしまった)(最近はおやすみの挨拶もして……)そんな廊下での些細なエルバートとの日常を思い出し、フェリシアは急に寂しさが込み上げ、自分の部屋まで駆けて行く。そして扉を閉め、床に座り込む。大粒の涙があふれ出て、止まらない。寂しく、誰かを想い、泣いたのは両親が亡くなったと分かった時以来。「戻ってきたご主人さまと……幸せになりたい……」そう、口に出した自分に驚く。エルバートに向ける好きの感情は分かっていたけれど、それだけでなく、(わたし、ご主人さまの花嫁になって、幸せになりたいのだわ)今までも十分、幸せな生活を送らせてもらってきた。正式な花嫁候補にもなれたのに、自分はなんて欲深いのだろう。けれどもう、想いを止められそうにない。(わたし、ご主人さまに無事に戻ってきて欲しい)だから、自分には、なんの力もないけれど、幸いここへ訪れる初日にミサの為のショートベールは被り持ってきた。その為、教会に行くことは出来る。フェリシアは大粒の涙を右手で拭う。(明日から教会に毎日通い、ご主人さまの無事を祈ろう。想いはきっと届くはず)* * *そう強く決意し、翌日の朝。「あの、リリーシャさん、近くに教会はありますでしょうか?」ブラン公爵邸の台所でリリーシャに尋ねる。「はい、歩いて行ける距離にあります」「なら、今日から教

  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   17話-4 出立。

    「ご主人さま、これを」扉の外側でフェリシアは紙に包んだ特別なパンをエルバートに差し出す。「焼いてくれたのか?」「は、はい。リリーシャさんに教わって……」「感謝する」エルバートはパンを受け取り、鞄の中に入れる。するとリリーシャ、クォーツ、ラズールも見送りに外に出て来た。「この家とフェリシアを頼む」エルバートがリリーシャ達に命ずると、かしこまりました、とリリーシャ達は答える。「では、行く」エルバートは背を向けて歩き出す。分かっている、このまま見送るべきだと。けれど、体が自然と動いた。「ご主人さまっ!」フェリシアが叫び、エルバートは振り返る。すると、フェリシアは胸に飛び込み、エルバートは抱き締める。肌寒さが消え、身も心も温かくなった。フェリシアはエルバートから離れ、笑う。「ご主人さま、行ってらっしゃいませ」「あぁ、行ってくる」エルバートはそう言い、高貴な馬に乗り、旅立って行った。(どうか、ご無事に帰ってきて)* * *しばらくして、高貴な馬でエルバートは宮殿前に到着すると、兵にその馬を引き渡し、宮殿前の広場へ向かい、階段を上がって壇上に立ち、出陣式に出席する。そして静寂に包まれる中、ルークス皇帝が16列に並ぶ全4部隊に向けてお言葉を述べ、続いて白き龍のような美のかたまりの容姿をした青年がお言葉を全軍に述べる。このお方はゼイン・ヴェルト。自分より3歳年下で、ルークス皇帝と血の繋がりはないが次期皇帝だと噂されている皇子だ。ゼインは述べ終わると、エルバート達を見る。「クランドール司令長官、 エルバート軍師長 、必ず、成果を挙げよ」「はっ」エルバートはクランドールと共に答え、クランドール、そしてエルバートも全軍に

  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   17話-3 出立。

    * * *それからしばらくして、湖に辿り着いた。湖の清澄な水面には美しい花が浮かんでおり、綺麗な蝶が飛び交う神秘的な場所で、白い小鳥や鹿が水を飲みに来ていた。言葉に出ないくらいに美しく心奪われ、少しの間、一緒に湖を眺めた後、緑の絨毯のような地面に並んで座る。すると白兎が近寄ってくる。「あ、かわいい……あの、ご主人さま、撫でても大丈夫でしょうか?」「あぁ」エルバートの許可をもらい、白兎を撫でてみる。白兎は本で見たことはあった。けれど、実際に見たのも、撫でたのも初めて。ふわふわでとても触り心地が良い。「ご主人さまもどうぞ」フェリシアはそう言い、ハッとする。(ご主人さまが撫でる訳ないのに……)「も、申し訳ありません、出過ぎたことを……」「気にするな」エルバートはそう言って白兎を撫で、微笑む。その顔を見た瞬間、自然と手が伸び、エルバートの頭を撫でる。するとエルバートは驚き、フェリシアも固まる。(わたし、今、何を)ふとエルバートの耳を見ると、赤く染まっていることに気づき、フェリシアもまた自分の頬に熱さを感じた。「遅くなったが昼飯にするか」「は、はい……」フェリシアがバスケットに入ったベーグルサンドを手に取り、どうぞ、とエルバートに渡そうとする。するとそこへ美しい鳥が飛んできて、ベーグルサンドをくわえ、翼を広げ飛んで行く。「あっ」フェリシアが短く声を上げると、エルバートは冷ややかな気配を美しい鳥へ飛ばす。(ご主人さま、とても怒ってらっしゃる…………)その後も静かに怒りながら、ベーグルサンドを一緒に食べ、地面に寝転がり、手が重なる。(ご主

  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   17話-2 出立。

    「フェリシア?」呼びかけられ、ハッと我に返り、後ずさると、壊れた鮮やかなブルーのブローチがドレスのポケットから床に落ちる。「あっ」短く声を上げ、エルバートがそのブローチを拾う。「これは両親の形見のブローチか?」「は、はい……懐かしくなり、久しぶりに持ち歩いておりました」「出会って間もない頃、お前から壊れたと聞いていたが、この壊れ方。ローゼに割られでもしたか?」(まさか、今になってバレるだなんて……)フェリシアが頷くとエルバートは息を吐く。「そうか、ではしばらくこれは預かる。良いな?」(ご主人さま、怒ってる? ずっと黙っていたせいかしら……)「か、かしこまりました……」「それからフェリシア、出立する前にお前と出掛けたい」「え?」フェリシアは短く声を出して固まる。「私と出掛けたくないか」「と、とんでもありません! その、驚いてしまって……」「ご主人さまが宜しければ、わたしもお出掛けしたいです」エルバートはふっ、と笑い、頭をぽんっと優しく叩く。「では、出掛けよう」* * *そして、出立の一週間前の午後。エルバートがようやく半日お休みをもらうことができ、フェリシアはお洒落をし、一緒にお出掛けすることになった。けれど、ディアムが横で手綱を持ち支えているエルバートの高貴な馬の前で固まる。いつもお勤めの際にお乗りになられるエルバートの馬を間近で見るのは初めて。なんてご立派な馬。(馬で一緒に行くことは事前に聞いていて、こっそり、クォーツさんと練習はしていたけれど……)不安で仕方ない。それに緊張で手汗がすごい。「フェリシア、馬に乗るのは今日が初めてだったな。乗るのが怖いか?

  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   17話-1 出立。

    * * *記憶を取り戻してから一週間が経つ朝。フェリシアは髪を一つにくくり、高貴な軍服姿をしたエルバートと居間で会う。けれど、記憶を取り戻してから、エルバートの正式な花嫁候補になったという自覚が強くなり、目を上手く合わせられない。「今日は挨拶してくれないのか」(…! ご主人さまがわたしの挨拶を待っている!?)フェリシアは目をなんとか合わせ、挨拶をする。「ご主人さま、おはようございます」「あぁ、フェリシア、おはよう」エルバートは手をフェリシアの頬に当て、優しく微笑む。(こんなの、まるで、新婚さんのようだわ)* * *その後、しばらくして、エルバートは高貴な馬で宮殿入りし、皇帝の間へと向かう。今日はルークス皇帝にお呼び出しされているというのに、(フェリシアが目をあまり合わせてくれないものだから、今朝はやり過ぎてしまった……気を引き締めなければ)皇帝の間の扉が門番により開かれ、髪を一つにくくり、高貴な軍服姿のエルバートは中に入る。すると、王座の階段の前に何者かが立っていた。床に敷かれた長いレッドカーペットの上を歩いて行くと、王座の階段の前に立つ高貴な軍服を着た者の姿が鮮明となった。この気高き壮年の男はクランドール・ホープ。自分より3歳年上の先輩にあたる軍師長で、自分とは違う軍を束ねており、司令長官を任された際には特に頭が切れ、とても頼りになる存在だ。「エルバート、久しいな。姿を見ない間に正式な花嫁候補まで作るとは成長したな」まさか、ルークス皇帝が玉座から見ておられる前でそう言われるとは。恥ずかしい。「クランドール閣下には敵いませんが、お褒め頂き、光栄にございます」「ふたりが再会でき、何よりだ。ではこれより本題に入る」ルークス皇帝にそう命じられ、エルバート達は並んで跪き、見据える。「帝都郊外の神隠しに合うと恐れられた森にて前皇帝の命を

  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   16話-4 もう一度、あの咲く花を見れたなら。

    * * *こうして、翌日からエルバートが早く帰ることはなく、ブラン公爵邸に帰って来てから気づけば、一ヵ月になり、その日の夜は何故か眠れず、フェリシアは居間のソファーに一人で座ったまま、ふぅ、と息を吐く。すると、エルバートに自分の名を呼ばれ、ハッとする。いつの間に居間に入って来たのだろう?足音さえ、気付かなかった。(大丈夫だと言ったくせに、こんな姿を見せては元も子もないわ)「あ、どうなされたのですか? もしかして眠れませんか?」「いや、私は家の見回りをしていただけだ」(家の見回り……魔が入ってわたしが襲われないように?)勤務でお疲れなのに、そこまで気を遣わせていただなんて。「あの、今、お飲み物を……」「必要ない。それより、支度をしろ。今から出掛ける」出掛けるって、こんな夜遅くに?(もしかして、自分に嫌気がさして、捨てられ……いいえ、きっと大丈夫)「かしこまりました」そう了承し、支度が完了すると、ディアムが御者を務める馬車に乗り、お互いに無言のまましばらくの時が流れ、辿り着いたのは、広がる海に白く美しき花が咲き誇る場所だった。(エルバートさまにお姫様抱っこされ来たけれど、とても綺麗な場所…………)もしかしたら、ここはディアムから聞いていた……。「お前を特別な場所へ連れて来たのは2度目だな」「1度目はお前と帝都の街に行った帰りにここへ連れて来た」(あぁ、やはり、記憶を失くす前のわたしと来た特別な場所だったのね…………)「そう、なのですね」「――だが、この木の前に連れて来たのは初めてだ」エルバートはそう言い、たくさんの蕾を付けた大きな一本の木の前でフェリシアを下ろす。(エルバートさまは、記憶を失くす前のわたしも、今のわたしさえも大事にして下さっている)「もうじき、深夜だな。見ていろ」フェリシアはエルバートと共に大

  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   16話-3 もう一度、あの咲く花を見れたなら。

    * * *エルバートは執務室の椅子に座りながら、ハッとする。なんだ? このただならぬ気配は。医務室か?エルバートは執務室から飛び出し、ディアムと共に医務室へと駆け付ける。「何があった?」エルバートは見張りの兵に問う。「エルバート様! 医師が寝室までルークス皇帝のご様子を見に出られ、見張りを続けていたところ、医務室内で邪気が発生し、扉が開かず、只今、入室出来ない状況でございます!」「そうか、退いていろ」エルバートは扉に右手を当て、祓いの力を使い、くくった長髪が靡くと、扉を勢いよく開ける。すると床に倒れるフェリシアの姿が両目に映った。「フェリシア!!」エルバートは叫ぶと同時に駆けていき、フェリシアを抱き起こす。魔はいないようだが、魔に弾き飛ばされ触れた箇所から邪気が溢れ、体全体を邪気のようなものに包まれているようだ。エルバートはフェリシアを抱き起こしたまま祓いの力を使う。するとフェリシアの頭痛は治まり、楽になったようだった。(……? 何かを持っている?)エルバートは両目を見開く。「これは私が帝都で渡したブレスレット……」恐らく、中庭の時にネックレスを失くしたのと同じくブレスレットを失くし、探す為にベットから一人で下りたのだろう。エルバートは切なげな顔をする。「もう私のことを思い出そうと頑張らなくていい」エルバートはフェリシアの左腕にブレスレットを付けて持ち上げ、ベットまで運び、寝かす。それから椅子に座るとフェリシアが、か弱き声で発した。「…………花が、見たい」その言葉で、エルバートは希望を感じた。(もしかしたら、私の記憶はフェリシアの心の奥底に残っているのかもしれない)そして、もう一度、あの咲く花を彼女と共に見れたなら。「――あぁ

  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   16話-2 もう一度、あの咲く花を見れたなら。

    * * *それからこの日を境にフェリシアは落ち着くまでブラン公爵邸に帰宅させることは出来ないと、祓いの力を持つ医務室の天才医師に診断され、しばらくの間、医務室で治療を受けることとなった。その為、エルバートとディアムも宮殿で寝泊まりすることになり、エルバートからリリーシャ達にその皆を伝えるように命じられたディアムは一旦馬で帰り、自分のせいで、ふたりに多大な迷惑を掛けることになった。早く思い出さなければ。そう思ったフェリシアは医務室に戻って来たディアムに密かに頼み、エルバートが執務で忙しい時に、アベル、カイ、シルヴィオに医務室まで来てもらい、エルバートのことを聞いた。「軍師長の様子なら、執務に集中出来ていない感じですね。着替えもせず、髪もくくったまま、フェリシア様のことばっか考えてますね」「カイ、そんなふうに言ったらフェリシア様が気にするだろう?」「フェリシア様、申し訳ない。でもまあ、フェリシア様が初めてだな、エルバートに色々な顔をさせるのは」アベルに続いて、シルヴィオも口を開く。「冷酷な鬼神だったのに今は惚気ているな」「誰が冷酷な鬼神だ」エルバートがそう言って医務室に入ってくる。「おかしいと思って来てみれば、さっさと出て行け!」エルバートに命じられ、アベル達はフェリシアに会釈をして医務室から出ていった。その後は毎日少しずつディアムからエルバートのことを聞いた。エルバートがフェリシアの家にご婚約の手紙を届けたことからブラン公爵邸で暮らすことになったこと、普段は月のように美しい銀の長髪を流したままなこと、ビーフシチューがお好きなこと、ご主人さまと呼んでいたこと等、これまでの日々のことを。けれど、思い出すことが出来ず、エルバートのことを朝も昼も夜もずっと考え続け、いつしか、8日目の夜になっていた。宮殿のお料理は病人食とは言え、どれも自分には高級で美味しい。けれど早く帰り、自分

  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   16話-1 もう一度、あの咲く花を見れたなら。

    * * *――――フェリシアをエルバートとの婚約の意を含めた“正式な花嫁候補”とする。医務室にいるフェリシアの心にルークス皇帝のお言葉が響く。まるで呼びかけられているよう。頭に包帯を巻いたまま、ベットから上半身を起き上がらせ、その身をディアムに支えられながらも、その声に触れるように、そっと自分の胸に両手を重ねる。するとなぜだか分からないけれど、自然と涙が溢れ出た。フェリシアはそのまま、ルークス皇帝のお言葉を聞き届けた。* * *客間でルークス皇帝のお言葉を聞き届けたエルバートは唖然と立ち尽くす。まさか、軍師長の座だけでなく、フェリシアをも守って頂けるとは。エルバートの父と母、そしてアマリリス嬢は絶句し、光がすぅっと消えると、ルークス皇帝の側近は手紙を懐に入れ、口を開く。「ルークス皇帝のお言葉は以上となります」「ならば、帰る」エルバートの父がそう言い、ソファーから立ち上がる。それを見た母とアマリリス嬢も続けて無言で立ち上がった。「では、私が宮殿の出入り口までお送り致します」ルークス皇帝の側近がそう言って扉を開け、エルバートの父と母はエルバートがこの場に存在していないかのような態度で客間から出ていき、アマリリス嬢もふたりに続いて出て行こうとする。しかし、立ち止まり、エルバートを見つめた。「エルバート様、お幸せに」アマリリス嬢は涙を浮かべながら笑顔を見せ、お辞儀をして客間から出て行く。これで、フェリシアはブラン公爵邸から出て行かずとも済むのだな。「ルークス皇帝、恩に切る」エルバートはそう感謝し、顔を右手で覆う。そのまま少し時が過ぎると、フェリシアがいる医務室へと向かった。* * *フェリシアはディアムに心配されながらも医務室のベットで起き上がったままでいた。すると医務室の扉が開かれる音が

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